「おんなじ3年間をキラキラ★活きてる!~涙の数だけ成長してく心温まる物語(2)~」
『支える』 お守りに支えられた私
2008年4月、「先輩、がんばってください」と後輩たちから『支』という一文字のお守りをもらいました。
そして、私の高校の女子硬式野球部は春の全国大会で優勝しました。
キラキラ光る優勝メダルを見たとき、高校の寮に入ってから今まで私を支えてくれていた
家族の顔が自然と浮かびました。野球は支え合ってプレーするもの。チームメイトや家族みんなのおかげでつかんだ優勝だと思いました。
毎朝心配してメールをくれるお母さんや、困ったときにはいつでも相談にのってくれる優しいお兄ちゃん。メダルを見せてあげようと思い、約1年ぶりに地元の和歌山に帰りました。
お兄ちゃんにメダルをかけてあげると、「よくがんばったな」って満面の笑み。
その日はお兄ちゃんが遊園地やデパートなど、色々な場所に遊びに連れて行ってくれました。久しぶりに会う兄との一日。とても楽しかったです。
ところが、その日から数日後、毎朝くる母からのメールが来ませんでした。おかしい......と思って電話をしました。すると「お兄ちゃんが事故に遭って......!」という母のふるえる言葉。
たいしたことないはず、そう自分に言い聞かせながら、あわてて兄が入院している病院に向かいました。けれども、案内された先は集中治療室。目に飛び込んできたのは、たくさんの機械のチューブに繋がれたお兄ちゃんの姿でした。うそ! お兄ちゃんがこんな......。
両親の前でもチームメイトの前でも、人前で泣いたことが一度もなかった私。けれども、兄の姿を見たとたん、ワーッと泣き崩れてしまいました。つい数日前まであんなに元気だった兄......。どうしようもなく涙が止まらない。その私の姿を見て母もまた泣きました。
その後、数時間記憶がありません。でもふっと我に返りました。野球の試合で捕手の私が暗い顔をしているとみんなにそれが伝わってしまう。その経験が思い出されました。「自分、泣いてる場合じゃない」。私よりもいつもいっしょに過ごしていたお母さんの方がずっと辛いんじゃないかなって。
私が家族を支えなきゃいけないと思いました。
翌日から、意識のない兄に、私は試合中チームメイトをいつも励ますように、「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と声をかけました。なぜかわかりませんが、私が声をかけるたびに、下がっていた兄の心拍数が上がるんです。毎日声をかけ続け、少しずつ兄の容態は良くなってきました。母の顔にもようやく笑顔が戻りました。
翌年、兄は奇跡的に大学に通えるまでに回復しました。とはいえ、脳に少し障害が残り、左足は切断してしまいました。辛い現実ともいえるかもしれませんが、お兄ちゃんの笑顔が見られるだけで私は嬉しいんです。
その頃です。カナダ女子野球代表チームの捕手の方が、末期の乳ガンを患いながらもプレーしていると聞いたのは。なにかできないかと部員全員で話し合い、「みんなで千羽鶴を折って届けよう!」ということになりました。
チームのみんなも私も願いを込めて一羽一羽折り続けました。千羽が完成し、タイミングよく練習のため、カナダに遠征に行くことになりました。そしていっしょに練習もできることに。
同じ捕手というポジション同士、キャッチボールをしました。力強いボールがミットに収まります。この人が末期ガンだなんてとても思えないくらい笑顔ではつらつと輝いていました。
その夜、ホテルでその方に千羽鶴を手渡しました。その方の目からは涙が溢れ、私たちにこう言ってくれました。
「ありがとう。私は野球があったからこそみんなにも出会えてこんなに幸せな人生を送ってこれました。「最後はグラウンドから天国に行きたいと思っています」と。私たちは言葉も返せずただただ涙を流しながらその方と抱きしめ合いました。それは私が人前で流した二度目の涙でした。
2009年の夏、3年間の野球生活が終わりました。全国大会優勝など楽しかったこと、日々の練習など辛かったこともたくさんありました。でも家族がいて、チームメイトがいて、五体満足に野球ができたことに感謝しています。
体に障害を抱えながらも一生懸命生きている兄。余命いくばくもなくても笑顔で野球を続ける彼女――。『野球のボールと同じ丸い地球にみんな同じように必死に生きている』
それなのになぜだろう、人間は決して平等じゃないんだなって感じました。私は困っている人々をなにかしら助けることはできないだろうか――。
『支』。後輩にもらったお守りが示しているとおり、私に誰かを支えることができたら......。
『支』。後輩にもらったお守りが示しているとおり、私に誰かを支えることができたら......。
私は今、医者になるために、受験勉強をしています。お医者さんになって、困っている人々を少しでも支えたい、そう思っています。
『支』 このお守りは私の宝物。そして、私の心の原点です。


コメントする